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東京高等裁判所 昭和39年(行コ)14号 判決

控訴人(原告) 荒木喜太郎

被控訴人(被告) 国

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は、「原判決中原判決添付目録一ないし五、八、九および一二記載の各土地に関する控訴人の請求を棄却した部分を取り消す。被控訴人が控訴人に対し右各土地について昭和二四年二月二六日なした買収処分は無効であることを確認する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述および証拠の関係は原判決事実摘示のとおりであるから、こゝにそれを引用する。

理由

当裁判所は、左記(一)および(二)の説明を付加した上、原判決と同一の理由により控訴人の本訴請求を失当であると判断するから、こゝに原判決の理由の記載を引用する。

(一)  一般に民事訴訟における既判力というのは、一定の時点―前訴の事実審の口頭弁論終結時―を基準としてそこで紛争のむし返しを遮断するために、前訴の確定判決で示された訴訟物の存否に関する判断に当事者および裁判所は拘束され、右の時点以前に生じた事由を当事者は後訴で再び主張することができず、裁判所も右の事由について前の判決と異なる判断はできないとする意味を持つものであつて、その半面右の時点以後に生じた事由を主張して一旦確定された権利関係を再び争うことは何等妨げないところとされるのである。したがつて、既判力の作用は、厳密な意味での一事不再理の効力のように再訴を当然に不適法とするものではなく、前記基準時における権利関係の存否については裁判所は前の判決と同一の判断をしなければならないことを意味するに過ぎない。給付訴訟で敗訴した被告が債務不存在確認の訴を起したり本件のように敗訴した原告が再び同一の請求を繰り返した場合でしかも前判決の既判力の基準時以後の事由について何の主張立証のない場合であつても、裁判所はこの訴を直に不適法とすべきではなく、訴訟物の存否(給付請求権の存在、買収処分無効事由の不存在)について前判決と同一の判断をした上請求棄却の本案判決をしなければならないと解すべきである。

(二)  本件買収処分は、東京都知事が当時の地方自治法第一四八条の規定により自作農創設特別措置法上その権限に属せしめられていた国の事務を管理執行したものにほかならないから、知事を被告とする右買収処分無効確認訴訟において知事は民事訴訟法第二〇一条第二項の規定により国のために被告となつたものと解するのが相当である。してみれば、東京都知事が被告として原告たる控訴人との間で受けた前訴の判決の既判力は、当然に国に及ぶと解しなければならない。したがつて、前訴と訴訟物を同じくする本訴において裁判所のなすべき判断は、前訴と本訴とが被告を異にするにかゝわらず、前訴の判決における訴訟物の存否についての判断に拘束されるものといわねばならない。

よつて、原判決中、控訴人主張の八筆の土地に関する本訴請求を棄却した部分は相当とすべきであるから、民事訴訟法第三八四条により本件控訴を棄却し、控訴費用の負担につき同法第九五条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 大場茂行 影山勇 秦不二雄)

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